文脈の大切さ<言語分析編>

半分もある

オレンジジュースがコップに半分ある状態を想定してみましょう。

A:コップの中にオレンジジュースが半分”しか”ない。
B:コップの中にオレンジジュースが半分””ある。

この両者の発言において、通常は、

A=否定的な人
B=肯定的な人

と評価されると思います。


Aはコップの中のオレンジジュースが半分なくなっていること、つまりなくなったオレンジジュースのことに焦点を当てています。
これに対して、
Bはコップの中からなくなったオレンジジュースではなく、まだ残っている、これから飲むことができる部分に焦点を当てています。


Aはなくなった部分に焦点を当てて残念がって(悲しがって)いるので否定的、
Bは残っている部分に焦点を当てて喜んで(嬉しがって)いるので肯定的
というわけです。


では、次のことを前提とするとどうなるでしょうか?

Bが甘い飲み物、特にオレンジジュースが嫌いな場合

Bが甘い飲み物、特にオレンジジュースが大嫌いだとすると、上の評価は一変します。

B:コップの中に(大嫌いな)オレンジジュースが半分ある(残っている)。

となり、嫌いなオレンジジュースがたくさん残っていて嫌だな、という否定的な主観を””で表現しているのです。

文脈次第

言葉、文というのは、その一文だけで独立して存在することは決してありません。必ず、前後の文脈というものがあります。前後の文脈が言葉ではなく、状況、発話者の態度や表情であることも多いでしょう。どちらにしても、前後の文脈を押さえないと発話者の意図を正確にとらえることができません。翻訳においても当然、前後の文脈を読み取ることが必須となります。

たとえば

次の文はどうでしょうか?

B:コップの中にオレンジジュースが半分””あるよ。誰か飲んでくれないか?

この場合のBはオレンジジュースが嫌いでそう発言しているのかもしれませんが、次の文が続いた場合どうなるでしょうか?

B:コップの中にオレンジジュースが半分””あるよ。誰か飲んでくれないか?飲み過ぎてもう無理だ。

これだと、オレンジジュースは好きだけど、飲み過ぎていてもう飲めない、ということです。

”も”単独では肯定とも否定ともいえない

”単独で肯定的な評価を伴うと理解することはできません。前後の文脈に照らして初めて””の意味も決まってきます。

表現とは?

表現とは、何か言いたいことを表に現す、ということです。言いたいことを一文で言うとしてもどういう状況で、どういう態度で、どういう表情で言うのかで同じ一文であっても意味が変わってくるのです。文字のみの場合は、表現者の態度や表情を確認することはできませんので、前後の文で文脈を見て判断するしかありません。文脈をどうとるかで一文の意味が一変するということがあるのです。翻訳において文脈を読み間違えると大誤訳につながりますので気を付けなければなりません。日々自分に言い聞かせている注意事項の一つです。

---終---

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2 件のコメント

    • ECS(翻訳士 真栄里) 投稿者返信

      docさん、いつもコメントありがとうございます。
      言語っておもしろいですよね。同じ語であっても文脈次第で反対の意味になるんですから。
      そこが翻訳の醍醐味、腕の見せ所でもあります。

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