不遜な翻訳者

翻訳とは

翻訳とは、原文を意味の同一性を保持したまま対象言語に置き換える行為です。
例えば、原文の英語(Good morning)を対象言語の日本語に置き換える(おはようございます)行為です。

意味の同一性

ここで、“意味の同一性”という表現をしましたが、意味が同じであれば良いとのみで捉えてはいけないと思います。
例えば、日本語で「そこはお客様に誤解があるかと思います。」という表現があったとします。
「誤解」ということですから意味的には、「正しく理解していていない」「理解に間違いがある」ということです。意味の同一性だけでいけば、「そこはお客様の理解が間違っています。」という表現も上記表現と同一と言えますが、「誤解がある」と「理解が間違っています」との表現には丁寧さに差があります。「理解が間違っています。」はストレートに相手の間違いを指摘する表現ですから(日本では)話者の怒りに似た感情がお客様に伝わりますが、「誤解がある」でしたら相手に間違いがあることをストレートな表現で指摘しているわけではないのでまだ冷静に話し合いができそうです。
この例からも分かるように意味が同一だからというだけで翻訳をしてはいけないと思います。
意味を伝える表現形式(用語の選択や言い回しなど)も意味の同一性と同じくらい大切です。
多くの翻訳者は、原文作成者がなぜその表現形式を選んだのか、その意図を理解したうえで翻訳をしています。

不遜な翻訳者

もっとも、そうではない翻訳者もいます。
原文をよく批判する翻訳者に多いのですが、「原文が分かりにくい。なんでこんな表現をしているんだ?添削したい。」ということを翻訳者がおっしゃる…。
文法的に許容し難い原文であるなら話はわかりますが、このような批判はそうではありません。原文の表現形式を批判しているのです。
この批判は翻訳者の越権行為だろうと思います。
原文あっての翻訳です。原文が分かりにくくなっていることには、原文作成者の意図があるはずなので、翻訳者はまずはその意図を理解しないといけません。そこは翻訳者が謙虚にならなければいけない部分だと思います。

なぜ翻訳に専門分野があるのか?

原文を文法ミス以外で非難する翻訳者の特徴として、その分野の専門知識が不十分だということが挙げられます。
私たち翻訳者は、(英日翻訳の場合)英語ができればなんでも日本語に翻訳することができるという万能選手ではありません。TOEICが満点だろうが、留学経験があろうが、流暢に英語を話せようが、英語ができるというだけで全ての分野を翻訳することができる人はいません。専門分野の翻訳をするためには専門分野の知識が必要だからです。

私たち日本人は日本語を何不自由なく話したり、書いたりすることができると思います。ですが、専門分野だとどうでしょうか?
例えば私は法学部出身で物理を専門に勉強したことはありませんので、量子力学ですとか原子、分子、ニュートリノなど聞いたことはあるもののその内容は日本語ですらほぼ分かりません。
そうであれば、物理分野の英日翻訳をすることは到底できません。日本語がわかるといっても専門分野の日本語となると別世界の話になるはずです。

そこに、翻訳にも専門分野がある理由があります。まず、日本語で専門分野をしっかりと理解していることが専門分野の翻訳には必須となります。
リーガル文書においては法律や契約書に関する体系的理解が必須です。
自分が理解することができない文があればその文がおかしいんだ、と批判することはとても簡単ですが、こと専門分野の話になるとそのような批判は自分の理解力のなさ、専門知識不足から生じたものにすぎないことが多々あります。そのような批判は、他者に自己の理解力のなさ、専門知識不足を自白しているようなものです。

原文を批判する前に、自分の理解が間違っていないか(法律や契約書に関する体系的理解があるのか)をまずは十分に確認する必要があると思います(正直なところ、翻訳学校で数か月リーガル関係の勉強をしたからリーガル翻訳を専門にしていいかというと、個人的には疑問です。単に法律用語の訳を知ることが翻訳ではないからです。法的な思考方法、体系的理解がなければ、何故法律関係文書があのように難しい言い回しをしているのかがわからず、リーガル翻訳をすることが難しくなると思います)。
原文作成者と同程度以上、その分野に関して専門知識を有しているのか?そこに十分に注意することが翻訳者には求められるでしょう。

---終---

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
日頃からのご支援、誠にありがとうございます。
翻訳特にリーガル翻訳について正しい理解をしていただきたく、下記のブログに参加しております。
応援クリックをよろしくお願いいたします。
にほんブログ村 英語ブログ 英語 通訳・翻訳へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です