「停止中」との表記
クーラーを止めるためにリモコンの「運転 切/入」ボタンを押すと、クーラーのリモコンに「停止中」という表記が出ることがあります。
”ん?”
この場合に、「停止中」との表現は可能なのか?という疑問を持ちました。
「停止」は「停止している」か「停止していないか」しかないのではないか?
ということで、「停止中」という表現の分析を始めました。
疑問の理由
「停止中」というのは、停止している最中のことです。
”最中”というのは、
動作・状態が現在進行していること(大辞林)
動作が進行中でまだ終わっていないとき(広辞苑)
つまり、動きが続くことで、時間的な幅があることを前提とします。
「停止」というのは、
動いていたものがとまること(大辞林)
いったん動きをとめること(広辞苑)
を意味します。
動いていたもの(動)がとまる(静)、ということですから、
”動”→”静”に変わる瞬間=「停止」
となるはずです。
とすると、「停止」というのは、”動”→”静”に変わる点(瞬間)のことでしょう。
”点”なのですから”幅”はなく、したがって、点をあらわす「停止」に時間的幅を前提とする”最中”はつながらないのでは?というのが疑問を持った理由です。
開始中も同じ
”動”→”静”の「停止」とは逆の、”静”→”動”の「開始」も同じで、「開始中」という表現は不自然だと思います。
「開始」というのは、何かが始まる起点であり、”静”から”動”が始まる点のことですから時間的幅を前提とする”最中”とはつながらないはずです。
「停止中」という表現はおかしいなと思います。
ただ、
次の表現はあるんですね。
公開(運転)停止中
映画が公開されていたけど、今は公開停止中だ。
あの原子力発電所は現在運転停止中だ。
この二つの表現には全く問題がありません。
エアコンのリモコンに表示される「停止中」と何が違うのだろう?
公開(運転)停止中が表している「停止中」は、停止状態が継続していること、という意味です。
つまり、これまで公開されていた、運転していたものが完全にとまって、そのとまった状態が継続しているという意味です。
これはまったく問題ありません。完全にとまった状態が継続することは可能です。
ですが、エアコンのリモコンに表示される「停止中」は、公開(運転)停止中の「停止中」とは状況が違っています。
エアコンのリモコンに表示される「停止中」は、エアコンが完全に停止するまでの間もエアコンは動いているからです。「停止」に向かっている最中ですよ、という意味です。完全にとまった状態が継続するという意味の「停止中」ではありません。
なので、公開(運転)停止中が問題ないとしても、エアコンのリモコンに表示される「停止中」も問題がないとは言えないのです。
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う〜ん…
難しい。
ですが!
こういった表現もあります。
開始手続・停止手続
「開始」も「停止」も”点”を表し、時間的幅はないという話を上でしました。
ですが、「開始手続」や「停止手続」という表現は可能です。
開始するために必要な手順のことが「開始手続」で、何かを開始するまで時間的幅があります。
ガス使用開始手続きなどと言われます。申し込み
↓
当日のガス開通作業(機器の設置・取り付け・接続など)という手順を経て初めてガス使用を開始することができます。
停止するために必要な手順のことが「停止手続」で、何かを停止するまで時間的幅があります。
ガス使用停止手続きなどと言われます。申し込み
↓
当日のガス使用停止作業(機器の取り外し・処分・ガス管撤去など)という手順を経て初めてガス使用を停止することができます。
開始手続き・停止手続きにおいては、上のように時間的幅があります(そもそも”手続”という言葉自体に時間的幅があります)ので、次のような表現が可能です。
開始手続中
停止手続中
ここで、エアコンの取扱説明書を見てみました。
エアコンの取扱説明書
エアコンのリモコンに表示される「停止中」において、そのエアコンは内部クリーン運動をしているのですが、内部クリーン運動では、
・送風停止1分間
・冷房運転
・送風停止約10分間
・送風運転約25分間
・弱暖房運転最大10分間
・送風運転約10分間
・自動停止
という手順になっていました。
自動停止に至るまでに複数の段階(手続)を踏んでいます。
これでわかりました。
エアコンのリモコンに表示される「停止中」とは、
「停止(手続)中」
のことだったのです。
たった3語なのに…
「停止中」というたった3語でしたが、日本語の難しさを感じました。
---終---
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