AI翻訳により人間翻訳は駆逐されるのか?

AI翻訳の精度がいかに向上しても、人間翻訳が不要になることはないでしょう。


人間が言語を用いて意思疎通をする限り、日々新たな言葉が生まれてきます。
AIの学習は常に人間が新たな言葉を創ったあとになされます。
ということは、AI翻訳が上手くいく前に人間による翻訳が必要になるということです。
AIの学習には人間による訳文という素材が必要なのです。

ただ、いったんAIが学習をすればその訳文が世の中に出回るでしょうから人間翻訳が必要となる場面は、同じ言葉に関しては減るようにも思えます。
しかし、同じ言葉、文であっても文脈により意味が異なるのが言語の特徴です。
言語は、人間の脳内のイメージを伝える単なる手段です。
その手段たる言語を介して聞き手が発話者のイメージを再構築して初めて会話が成り立ちます。
私たち翻訳者は、言葉の字面だけを見ているのではないのです。
その言葉が発せられた状況(発話状況)、これまでの話の流れ(文脈)の中で言葉を解釈しながら翻訳をしているのです。
決して、
横文字(英語)をそのまま縦文字(日本語)に、縦文字をそのまま横文字に形式的に置き換えているわけではないのです。
残念ながら、現在のAIは、ニューラルネットワーク翻訳、統計翻訳如何にかかわらず、言葉を解釈しながら翻訳をするということができません。
発話状況、文脈を踏まえた翻訳が複雑すぎるのです。
たとえば、

He counted the count.

という英文があるとします。
どういう意味になるでしょうか?
はっきり言ってこれだけだと分かりません。
あえて翻訳すると
「その数を数えた。」
となりますが、
[the]
があるため、何の数であるかは前の文次第で変わってきます。
もし、

[He](彼)がボクシングの審判であれば、「10カウント」を数えた、という意味になることがあるでしょうし、
[He](彼)がレジの店員であれば、お客から受け取った「札の枚数」を数えた、という意味になるかもしれません。

[the]が何を指すかは上の一文だけからは不明なのです。
しかも、[the]が指すものが、直前の文にあるとも限りません。もっと前にあるかもしれません。
そうなると、発話者が伝えたいことが何なのかは、発話全体を見ないと分からないことになります。
いかに技術が発達しても、まだ機械はそのレベルには来ていません。
そこが、人間翻訳が必要とされる理由です。

もっとも、
AIの高度化により人間翻訳がもし不要となった場合、その場合は世の中のほとんどの仕事をAIがしているでしょう。
決して翻訳業だけがなくなっているわけではありません。
人間が他の動物と異なるのは、高度な言語能力を有するからですが、人間翻訳が不要となる、ということは、その言語能力をAIが獲得し、人間を超えるということを意味するからです。
人間ができないこともAIができるようになるわけですから、もはや人間ができる仕事は世の中には存在しないでしょう。

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