遺産分割協議書の日英翻訳
ある方が亡くなった場合、相続が発生します。法的には、亡くなった方を”被相続人”(たとえばA)といい、相続が発生して被相続人の遺産を引き継ぐ方を”相続人”(たとえばX)といいます。
遺産分割協議書には、たとえば、
Aの遺産について協議を行った結果、下記に従って分割することに合意した。
1 別紙目録の全不動産をXが取得する。
と記載されます。
ここで、
「全不動産をXが取得する」
の日英翻訳を検討したいと思います。
取得するの英単語
「取得する」の英単語として、
get
acquire
obtain
purchase
などがあります。
どれを使えば良いのでしょうか?
[obtain]は、
物の取得なので、不動産所有権の取得には不適切です。
[get]は、
意思の有無にかかわらず手に入れるという原義がありますので、意図的に遺産分割協議をして不動産の所有権を取得した場合には不適切です。
[purchase]は、
代価(犠牲など)を払って取得するということで、典型的には、売買契約での取得ですから遺産分割協議をして不動産の所有権を取得した場合には不適切です。
[acquire]には、
(権利を)取得するという意味がありますから上の英単語の中では今回検討する「全不動産をXが取得する」の「取得する」に一番意味的に近い単語ではあります。全不動産の所有権をXが取得するわけですから。
ですが、
ここでは、inherit(財産を相続する)という単語が最適となります。
なぜinheritが最適なの?
なぜ、[inherit](<財産>を相続する)が最適なのでしょうか?
それは、
(遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし…
との民法909条本文の規定があるからです。
現実には、遺産分割協議により他の相続人甲と乙から法定相続分の遺産がXに移転するのですが、これはいわば過渡的な行為で、法的には遺産分割協議が整ったら、相続により(つまりAの死亡により)直接、AからXにAの遺産全てが承継された、という扱いになるのです。
つまり、甲と乙はA死亡によって遺産を取得したことはないという扱いに法的にはなるのです(ややこしいですが)。
民法909条本文を踏まえると(民法909条ただし書が問題となる場合はまた状況が変わってきますが、ここでは本文のみを検討します)、「全不動産をXが取得する」という文は、「全不動産をXが相続する」という意味になります。
そういうことで、
「全不動産をXが取得する」
という文の日英翻訳で用いる英単語は、[inherit](<財産>を相続する)が最適となるのです。
翻訳って…
翻訳は、
縦を横にする
横を縦にする
という単純作業ではありません。極めて専門的な作業です。
今回検討したのは、遺産分割協議書の文言でした。遺産分割協議の法的効力(民法909条)についての法的知識がないと正確に日本語を理解することができませんので、当然適切な英単語を見つけることもできません。法的な文脈の中での翻訳となりますので、法律関係の文書を翻訳する際には当然に法的知識が不可欠となります。辞典を調べるだけでは翻訳をすることができませんので、その点をご理解いただけたのなら幸甚です。
---シリーズ続---
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