イギリス人との離婚(国際離婚)

国際離婚

 離婚は、それだけでも心身ともに疲労する大変な出来事です。
 しかし、離婚をしないと前に進めない、ということもあります。これまでの関係を清算して、新たな人生へ踏み出すための離婚が必要になることがあります。
 日本人同士であれば「協議離婚」が可能です。お互いが離婚届に必要事項を記入し、役所へ届け出れば離婚が成立します。
 ところが、外国では、「協議離婚」を離婚として認めない制度が採用されていることが多々あります。
 離婚には裁判所の判決が必要という制度が結構存在しています。
 日本ですと、「裁判離婚」と同じです。
 ここでは、イギリス人と結婚した日本人が訳あって離婚する場合について考察したいと思います。

国際私法によると…

 日本人とイギリス人が離婚する場合、まず検討するのは、国際私法です。
 正確には、「法の適用に関する通則法」(以下では、「通則法」と省略します)という名称の日本の法律です。
 この法律によると、日本人が日本に住んでいる場合、離婚は、日本法を適用することになります(通則法27条ただし書)。
 日本では「協議離婚」が可能ですので、離婚届に当事者がサインをして役所へ届け出れば有効に離婚が成立します。
 ただ、「通則法」はあくまでも日本の法律ですので、その離婚の有効性がイギリスでも有効となるかは定かではありません。
 なお、イギリスでは、日本での「協議離婚」がイギリスでも有効であるという判例があるようですが、日本でのすべての「離婚協議」が有効かどうかは定かではありません。
 もし、この「協議離婚」が日本では有効だが、イギリスでは効力を持たない、とすると、どうなるのでしょうか?

具体例

 たとえば、日本人妻Aさんとイギリス人夫Bさんが「協議離婚」する、という事例で考えてみます。
 「協議離婚」は日本では有効ですから、ABの離婚は、日本で効力を持ちます。ですので、日本国内ではABの夫婦関係は解消されます。夫婦ではないことになります。
 しかし、もしこの協議離婚がイギリスで効力を持たない、とすると、イギリス国内では、ABは依然として夫婦として扱われることになります。
 つまり、ABは、日本では夫婦ではありませんが、イギリスでは依然として夫婦だ、という矛盾した身分関係が形成されることになります。


 この矛盾がどういう結果をもたらすのか?をここでは検討しておく必要があります。
 Aさんは、日本で日本人やアメリカ人と再婚することが可能です。
 しかし、Aさんはイギリス人と再婚することができないことになります。なぜなら、イギリスでは、依然としてABは夫婦と扱われているため、Aが他のイギリス人と再婚することは重婚になるからです(一夫一婦制のイギリスでは重婚はできません)。
 このように、ややこしいことになります。

どうすべきか?

 そのような事態の発生を防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか?
 方法は2つあります。

1つ目

 日本で「協議離婚」ではなく、少なくとも「調停離婚」をすることが1つ目の方法です。
 「調停離婚」は、「協議離婚」と違って裁判所が関与する離婚ですから、イギリスでも効力を持つと言われています。

2つ目

 もっとも確実な方法は、イギリス離婚法の手続きに従って離婚をする方法です。
 この離婚でしたら確実にABの夫婦関係は日本のみならず、イギリスでも解消されます。
 イギリスでは、離婚自体は、弁護士に依頼せずに、自分たちで手続きをするのが一般的なようです。
 その手続きの完了には数カ月はかかるようですが。

イギリスの離婚事由

 ちなみに、イギリスの離婚事由は、以下の5つです。

(1)Adultery(不倫)
 正確には、夫又は妻が、異性と性交渉を持ち、かつ一緒に生活することに耐えられない場合です。
(2)Unreasonable behaviour(不合理行動)
 たとえば物理的暴力や口撃や生活費を入れない、などの不合理行動があり、かつ一緒に生活することに耐えられない場合です。
(3)Desertion(遺棄)
 夫(妻)が、妻(夫)の同意なく妻(夫)を残していった場合などです。
(4)You have lived apart for more than 2 years(2年を超える別居)
 正確には、夫婦2人が離婚に同意しており、かつ、2年を超えて別居している場合です。
(5)You have lived apart for more than 5 years(5年を超える別居)
 正確には、夫又は妻が離婚に同意していなくても、5年を超えて別居している場合です。

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