揚げ足を取られないように!<正確性 翻訳とは?>搭乗拒否

翻訳に必要な能力とは?

翻訳に必要な能力には、

・外国語の理解
・母語の理解

があります。
翻訳に必要な能力で通常意識されるのは、「外国語の理解」だと思います。
しかし、翻訳という作業が、外国語を母語(母語を外国語)に翻訳することからすると、外国語の理解以上に母語の理解が重要となります。
母語の理解があやしいと翻訳は難しくなります。
ただ、母語の理解といっても、母語の深い理解がなくても母語話者間では不自由なく話ができることが多いですから母語の重要性が意識されることはあまりないのですが、こと、翻訳となると、その母語の理解が重要となってきます。

マスク着用と搭乗拒否

たとえば、飛行機に乗る際、次のようなアナウンスがありました。

理由なくマスクを着用しないお客様のご搭乗をお断りする場合がございます。

理由なくマスクを着けないと搭乗できないんだな、と理解すると思います。
ただ、この表現だと、

理由なくマスクを着用しないお客様の搭乗を断らない場合もあるってことだよね。

と理解することも可能です。
つまり、理由なくマスクを着用していなくても飛行機に搭乗することができる、と理解することも可能な表現となっているのです。
なぜ、そういう理解も可能となっているのでしょうか?

マスクしてなくても何故搭乗することができる?

「場合」とは?

ポイントは、「場合」という表現にあります。
「場合」とは、起こりうる可能性がある複数の事態の中から一つの事態を取り上げることを表す際に用いる表現です。
この「場合」という表現に注目して、上記のアナウンスを分析すると、次のようになります。

理由なくマスクを着用しないお客様が飛行機に乗ろうとしていたとして(事態A)、
その後に起こりうる可能性としては、

事態1 搭乗を断る
事態2 搭乗を認める

の二つがあります。

上記アナウンスの表現は、起こりうる可能性二つのうちで、事態1だけを取り上げていて、事態2には何ら触れていませんから、論理的に事態2を否定していません。
ということは、上記アナウンスの表現は、事態Aにおいて事態2がありえる表現となっています。

マスクなしで搭乗できる場合とは?

事態Aにおいて事態2がある、というのでしたら上記アナウンスの表現で良いのですが、そういうことはないと思います。
理由なくマスクを着用しないお客の搭乗を認める理由がわかりません。もし、理由なくマスクを着用しないお客の搭乗を認めることがある、というのであれば、もはやマスク着用を搭乗の要件とすることに意味はなくなりますから。

上記アナウンスの意図は?

そうすると、上記アナウンスの意図は、

原則:マスクを着用しないお客の搭乗は断る。
例外:マスクを着用しないことに理由があるのならマスクを着用しないお客の搭乗を認める。

ということだと思います。

正しい表現は?

そうだとしますと、上記アナウンスの文は、正しくは、

理由なくマスクを着用しないお客様のご搭乗はお断りします。

という表現にしないといけません。
この表現なら、上記アナウンスの意図の原則と例外の関係を正確に反映した表現となっています。
マスクを着用しないことに理由がないのですから、上記の例外には該当せず、よって、原則に戻って、マスクを着用しないお客の搭乗は断られるからです。

上記アナウンスの表現にしたのは何故なのでしょうか?

正確な表現が

理由なくマスクを着用しないお客様のご搭乗はお断りします。

であるということは、航空会社も理解していると思いますが、この正確な表現だとキツイ言い方になると考えたのではないでしょうか?
理由なくマスクを着用しないお客様への搭乗拒否の意思表示を柔らかく表現したいという航空会社の配慮があったように思います。
ただ、このアナウンスのような不正確な表現をしてしまうと、理由なくマスクを着用しない客の搭乗を断らない場合もあるんだろ?と揚げ足を取られることも考えられますので、そうなると事態が余計にややこしくなりかねません。
最終的には航空会社が強制力を用いることができるとはいえ、不正確な表現をすることで余計な騒ぎを招くことは最終的には他の乗客の迷惑になると思います。
ここは、
はっきりと、ビシッと、

理由なくマスクを着用しないお客様のご搭乗はお断りします。

と表現すべきです(ルールを守らない者は客ではありません。自由は恣意を意味しません。)。

---終---

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1 件のコメント

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