飲み回しvs回し飲み<言語分析編>

飲み回しって?

ある知事が、

飲み回しは避けてください。

と発言していました。
新型コロナウィルス感染拡大防止を呼び掛ける文脈での発言です。
一瞬「?」と思いました。「回し飲み」という単語にはなじみがありましたが、「飲み回し」という単語にはなじみがなかったからです。
そこで、広辞苑を調べてみたところ、「回し飲み」(容器を人から人へと回して飲むこと)は掲載されていますが、「飲み回し」は未掲載でした。
ですが、大辞林には掲載されています(一つの器についだ酒などを順々に飲むこと、とあります)。

意味的には違いがなさそう

「回し飲み」も「飲み回し」も、「回して飲む」「順々に飲む」ということですから辞書の意味的には違いがないようです。
ですが、「回し飲み」は、回しながら飲む、つまり、人から人へと回しながら一つのグラスに入った飲み物を飲むことで、
「飲み回し」は、飲みながら回す、つまり、一つのグラスに入った飲み物を飲みながら同じグラスを人から人へと回していくことを表す表現だと理解することができます。
結局、いずれの表現も一つのグラスに入った飲み物を複数の人が飲むことを意味するわけですが、「回し飲み」では、飲むことに焦点を当て、「飲み回し」では回すことに焦点を当てた表現だと思います。

飛沫防止に適した表現は?

新型コロナウィルス感染拡大防止のためには、飛沫防止が重要になってきます。
飲み物を飲む行為自体を強調しても飛沫防止にはなりません。飛沫防止のためには、別の人と同じグラスで飲むことを避ける必要があり、同じグラスを回す行為を避けないといけません。その観点からすると、同じグラスを人から人へと回すことに焦点を当てた「飲み回し」を避けてください、との表現が適切になると思います。

どこに焦点を当てるのか

辞書的には同じ意味とされていても、表現が異なる以上、どこかに違いがある、というのが認知言語学上の知見です。
発話者の認識が言語表現に現れますから翻訳の際にも書かれている原文の表現には徹底的にこだわっていかなければならないと思います。

---終---

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