日本語としてはスムーズなのですが…<誤訳編>1

原文と訳文

You acknowledge that you shall contact a medical doctor in any case you need medical assistance.
(医療行為の支援が必要な場合には医者に連絡することについて承認しているものとします。)

原文が上で、ある訳文が下です(原文と訳文は、ここでの検討に影響のない範囲で変更しています)。

shallの位置に注意

法律英語(リーガル英語)では、[shall]は法的義務を表す極めて基本的な専門用語です。
「〜するものとする。」との訳が一般的です。
法的義務ですから、その義務に違反すれば義務違反を問われ、損害賠償義務を法的に負担したりしますので、

(1)誰が、(2)どの行為について

法的義務を負っているのかに注意して翻訳をしなければなりません。

原文のshallの位置と訳文の対応関係は?

原文のshallの位置は、

You acknowledge that you shall contact a medical doctor in any case you need medical assistance.

となっています。

~ that you shall contact ~.

と原文では書かれていますから、正確な訳は、

あなたは、連絡するものとする〜

となります。

正確には?

正確な訳は、

医療的支援が必要な場合には医者に連絡するものとすることについて承認しています。

となります。

(❌)医療行為の支援が必要な場合には医者に連絡することについて承認しているものとします
(🔴)医療行為の支援が必要な場合には医者に連絡するものとすることについて承認しています。

誤訳の方だと、承認義務があるという意味になり、
正しい訳だと、連絡義務があるという意味になります。
意味が全然違います。誤訳の方だと、連絡する義務があるかが不明です。
原文が、連絡(contact)の直前に[shall]を置いている以上、義務を負う行為は連絡行為であることは明らかですから、その原文通りに、「連絡するものとする」と訳をしないと原文の正確な意味が伝わりません。
誤訳の場合、承認義務に従い、承認しました。でも連絡義務までは負っていません、という反論が可能となるため、もし、医療行為の支援が必要な場合に、医者への連絡を怠った場合でも、連絡義務は負っていないのだから法的責任は負わないと反論され、裁判所でもその反論が認められる可能性が高まるのです。

契約書では、

契約書を作成する目的は、将来起こりうる不履行等を想定して、その際の対応を規定することにあります。
交通事故が起こりうることを想定して自動車保険に加入するのと全く同じです。
最終的には、裁判所で当事者の主張や反論を審理して判決をすることになるわけですから、誰がどの行為について法的義務を負っているのか?は当事者がもっとも関心を有する事項です。
当事者は、慎重な検討の結果、契約書の文言としてお互いの義務を規定しているのですから、安易に[shall]の位置を変更して訳をすることは避けなければなりません。
誤訳の方が、正確な訳よりも日本語してスムーズな印象を受けますから、そういう誤訳をした心情は理解することができます。
が、契約書は、最終的には裁判所に向けられた文書です(名宛人は裁判所です)から、法的な正確性をちゃんと保持しなくてはなりません。
契約書で、[shall]が出てきた場合、誰が、どの行為について法的義務を負うのか?をきちんと意識して翻訳をしないとリーガル翻訳者として失格となりますので、注意が必要です。

---続---

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